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神戸地方裁判所 昭和54年(ヨ)55号 決定

債権者 中山五月台住宅管理組合

右代表者理事長 羽淵紀昭

〈ほか三一名〉

右債権者ら訴訟代理人弁護士 元地健

債務者 兵庫県住宅供給公社

右代表者理事長 戸谷松司

右訴訟代理人弁護士 大白勝

同 武田雄三

同 後藤由二

主文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は債権者らの負担とする。

理由

一  本件仮処分申請の趣旨及び理由の要旨は、別紙(一)及び(二)記載のとおりであり、これに対する債務者の答弁及び主張の要旨は、別紙(三)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  債権者組合が本件団地の区分所有者全員をもって構成するものであり、区分所有法及び規約によって本件団地の維持管理その他共同生活の秩序を維持するために昭和五二年四月二八日設置され、役員、理事会、総会等の機関を有する団体であり、その余の債権者らが債権者組合の構成員であること、債務者が本件団地を企画、建設、販売し、本件敷地上において第四、五期工事を行おうとして既に一部着工していること、本件団地が全二六棟、総戸数七九〇戸の共同住宅として計画され、そのうち一八棟五七〇戸が第一ないし第三期工事により現在までに完成しており、昭和五三年一一月現在で約四五〇戸が入居しているが、八棟二二〇戸の建築が未完成であること、債権者組合を構成する各組合員が建物につきその専有部分(一戸当り専有床面積六八・六六平方メートル、他にバルコニー約一〇平方メートル)を区分所有するとともに、本件敷地及びその他の共用部分につきそれぞれ七九〇分の一の共有持分を有していること、債務者が本件団地の第四、五期工事として八棟二二〇戸(一戸当りの予定登記上の専用床面積は八〇・六二ないし八三・四〇平方メートル)の新タイプの住宅の建設を予定し、一部着工済みであること、以上の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、債権者ら主張の被保全権利の有無について判断を加えることとする。

(一)  前記争いのない事実並びに本件疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。

(1) 債務者は、地方住宅供給公社法(以下「公社法」という。)に基づく事業として本件団地の建設を計画し、昭和五〇年三月二九日債務者理事会(以下「理事会」という。)において、第一期、第二期、第三期の各工事分としてそれぞれ二三〇戸、二二〇戸、一二〇戸の合計五七〇戸を昭和五〇年度の事業として建設する旨の具体的決定をし、同月三一日兵庫県知事(以下「知事」という。)の承認を受けたが、翌五一年三月六日理事会において右計画のうち、第一期及び第三期の各工事による建設戸数をそれぞれ二四〇戸、一一〇戸と変更し、その他資金計画等を変更する旨決定したうえ、同月一二日知事の承認を受けた。

(2) その後、債務者は、右計画にかかる工事に着手して昭和五三年三月末日までにこれを完了したが、その間パンフレット等を通じて入居者を募集し、完成にかかる五七〇戸中、昭和五四年二月現在で債権者らを含む四五六戸の分譲入居が終り、右入居者において本件敷地の共有持分各七九〇分の一、合計七九〇分の四五六を有しているが、その余の持分は未だ債務者に残されている。

(3) 債務者は、第一期ないし第三期工事中の昭和五二年三月理事会において昭和五二年度の事業として第四期工事分四棟一〇〇戸を建設する旨の事業計画を決定し、知事の承認を受けたうえ、これを公表したが、右計画によって建設予定の住宅は、第一期ないし第三期工事によって建設された既存タイプ住宅に比し、一戸当りの専有床面積が約一一・九六ないし一四・七四平方メートル広い、いわゆる4LDKのもので、その分譲計画は同年五月一日及び同月二日に神戸新聞、産業経済新聞にそれぞれ掲載された。

(4) 更に、債務者は、昭和五三年三月理事会において昭和五三年度の事業として第五期工事分四棟一二〇戸(うち、一〇〇戸は第四期工事によって建設予定の住宅と同一タイプの4LDKで、他の二〇戸は4DK)を建設する旨の事業計画を決定し、知事の承認を受けた後にこれを公表したが、この分譲計画も同年四月二七日付の神戸新聞に掲載された。

(5) 債務者は、右決定にかかる第四、五期工事中、第四期工事分四棟一〇〇戸については既に着工済みのところ、第四、五期工事が予定どおり行われ合計八棟の建物が建築された場合、そのために要する建物の敷地面積は、既存タイプの住宅を建設する際に要するそれに比し合計七四一・一二平方メートル(一棟当り九二・六四平方メートル)広くなるが、右八棟の建物は本件団地に建物建築以前から完成していた「ロット」(公道及び団地内道路により区切られた部分)の形状、位置、面積等を変更することなく、既存のロット上に建築が予定されている。

(二)  ところで、債権者らは、本件仮処分申請の被保全権利として本件敷地の共有持分権に基づく妨害予防請求権を主張する。

なるほど、本件敷地が債権者らを含む団地住宅購入者及び債務者の共有物であることは前示のとおりであり、本件第四、五期工事が本件敷地の管理に当る処分であることは前記認定の右工事の内容、規模等に照らし明らかである。

しかしながら、本件団地は債務者により公社法に基づく公益事業の一環として建設分譲されるものであること、右建設分譲は、各事業年度毎に債務者理事会で具体的な計画決定がなされ、知事の承認を受けたうえで数年がかりで遂行されるものであり、その募集、分譲は右の具体的決定を経て建設された住宅部分について順次なされるものであること、したがって、経済事情並びに住宅に対する社会的要求の変動等に伴い、当初計画を変更、調整する必要が生ずることも予想されること、本件団地分譲契約の締結として、債権者らを含む既存タイプの住宅の購入者と債務者との間に取り交わされた「住宅の積立分譲に関する契約証書」並びに「住宅の積立分譲に関する契約に基づく譲渡契約証書」には本件団地が二六棟七九〇戸をもって構成される旨の記載はあるものの、七九〇戸全てが同一タイプの住宅である旨の記載はないこと、本件団地の如くいわゆる区分所有の対象となる団地住宅の分譲の際には、通常その分譲価格には敷地の価格が共有持分権に応じて含まれるものではあるが、敷地の管理は専ら住宅購入者によって構成される管理組合によってなされ、住宅購入者個人が自由にこれを管理する余地がなく、その利用の範囲が事実上限定されていることから、住宅購入者の関心は専ら住宅並びに設置予定の附属施設等居住環境に集中し、住棟建設予定地とされている他のロット内の管理使用についての関心は薄いと考えられ、現に債務者による本件団地の第四期工事の計画決定の内容が昭和五二年五月に、第五期工事の計画決定の内容が昭和五三年四月にそれぞれ公表され新聞にも掲載されたにもかかわらず、その後に債務者と既存タイプの住宅を目的として従来の契約内容と同一の分譲契約を締結した者が少くないことが疎明されること等の諸点を総合考慮すれば、本件団地の共用部分の利用関係に殆んど影響を及ぼさない範囲において、住宅規模、構造を債務者が右事業計画遂行のために決定、変更し、それに必要な本件敷地の利用権限を債務者に留保することが、債権者らを含む住宅購入者と債務者間の分譲契約において合意(暗黙)されていたものと認めるのが相当である。そして、前記認定のとおり、本件第四、五期工事によって建築される建物は従来のそれをやや大きくしたものであり、かつ、これにより既存タイプの住宅建設の場合に必要とされる底地面積に比し余分に必要とされるそれは、合計七四一・一二平方メートル(一棟当り九二・六四平方メートル)であり、総面積からすれば必ずしも狭少なものとはいえないが、右面積は計数上算出されるものであって、現実に利用可能なまとまった土地を奪われるのではなく、前記建築予定建物は、本件団地に建物建築以前から完成し、事実上債権者らによって利用されることのない「ロット」の形状、位置、面積等を変更することなく、既存のロット上に建築されるものであること等を考慮すれば、既存タイプ住宅を建設する場合には必要としなかった膨張部分をも建物の底地とする本件第四、五期工事は、前記債権者らを含む各住宅購入者と債務者間の分譲契約において、債務者に留保されている本件敷地の利用権限の範囲内のものと認めるのが相当である。

そうすると、本件敷地の共有者たる債権者らは、債務者との各分譲契約によってその共有持分権の行使を制限され、膨張部分にもわたる債務者の本件第四、五期工事についてはこれを受忍すべき義務があるものというべきである。したがって、債権者らの本項の主張は理由がない。

(三)  次に、債権者らは、いわゆる共用部分に関する区分所有法九条及び一三条が団地内の土地についても準用されることを前提とし、これらを本件差止請求の一根拠としているものと解されるが、右土地について同法の関係規定の準用を認める同法三六条は右九条及び一三条を準用していない。したがって、団地の共有に属する共用部分の管理について直接一般法である民法の共有についての関係規定(ことに民法二五二条)が適用されるものであるところ、これに基づく債権者らの共有持分権の行使が債務者に対して制約されることは前示のとおりである(なお、同法一三条の管理方法については管理組合の規約で定めることのできない事項であることは同法二三条の文言上明らかであるから、右が規約で規定可能な事項であることを前提とする債権者らの主張も理由がない)。

また、債権者らは、区分所有法五条を本件差止請求の一根拠としており、区分所有者が共同の利益に反する行為をした場合、同条一項に基づき右行為の差止請求をなしうるものと解すべきであるが、右行為が区分所有建物の敷地に関してなされた場合の差止請求権の根拠となるのは、結局において区分所有者の敷地についての権利と解すべきである。したがって、本件においては、債権者らの右権利、すなわち本件敷地の共有持分権の行使は、前記と同様の制約を免れないものといわなければならないから、本主張も理由がない。

(四)  次に、債権者は、規約中の物件目録に本件団地の一戸当りの専有部分の床面積が「六八・六六平方メートル」と記載されているから、これを改正しない限り、右床面積と異なる床面積の住宅を建設することは許されない旨主張し、規約中に右記載があることは「中山五月台住宅管理組合規約」の記載上明らかであるが、これは本件団地の専有部分及び共用部分の特定、表示に関連してその時点における一戸当りの面積という事実を記載したものにすぎず、それが将来における右面積と異った住宅の建設を禁止する効力を有する趣旨でないことは、右規約の記載自体に照しても明らかである。

また債権者らの、本件第四、五期工事は債権者らに対し、実質的利益の全くない過剰な共有持分を取得させ、その代価相当分の出費を強制する旨及び右過剰共有持分に対する公租公課を負担させる不公平なものである旨の各主張は債務者にそれについての清算ないし損害賠償の義務が生ずるか否かはともかくとして、少くとも右事由自体は本件第四、五期工事差止請求権の発生原因たりえないものであることは明らかであるから、いずれも理由がない。

3  よって、本件仮処分申請は被保全権利の疎明がなく、疎明にかえて保証を立てさせるのも相当でないからこれを却下することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 竹中省吾 法常格)

〈以下省略〉

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